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地下室で腐るヒト

 燕雀探偵社の地下には、秘密の部屋があった。
 明り取りさえない、石造りの部屋だ。
 部屋にあるのは、螺旋を描いた大きな燭台だけ。
 ただひとつ不思議なのは、その燭台にともっているのは普通の蝋燭ではないところだ。燭台に等間隔にともっているのは、形容し難い紫色の炎。燃える糧もないのに、紫の炎はゆらゆらと燃え続けている。
 燕雀探偵社の地下で静かに燃えるこの炎は、ロキが人間界に来てから集めてきた邪気――人々の心の闇が生み出した魔、人々の心に取り付いた闇の結晶だ。
 ロキはその炎を、反対側の壁に背を預けて座り込みながら眺めていた。右足を投げ出し、左足を抱え込むような体勢で床に座り込んでいる。
 大元から表情をつくるのに薄いロキであったが、今のロキは生気のかけらすらなかった。紫色の炎がゆらゆらと揺れてロキの頬に陰影をつくるが、それ以外の変化は微塵もないありさまだ。
 あやしく揺れる紫の炎を眺めてはいたが、緑色の目にはなにもうつってはいないと、少しでも彼を観察する者がいたならばわかるだろう。
 ……白い霧に触発されて邪気が活性化しないように様子を見ているとヤミノ君に言ったけど、言い訳にしてもひどすぎる。
 ロキは紫の炎を眺めながら、心の中で自嘲する。
 不忍池を源として東京を包み込んでいる白い霧は、今は完全にセラフィナの手中にあり、何人たりとも傷つけはしない。白い霧を構成しているのは負の感情ではなく、慈しみややさしさだ。
 あの日白い霧がまゆらに触手を伸ばしたのは、白い世界にセラフィナの声が完全に浸透していなかった時間であったことと、まゆらを保護する為の『揺り籠』としての過剰反応だろう。今はもうそのふたつも平定され、まゆらが外に出たとしても霧は霧としてあるはずである。
 そんな生の力に満たされた霧に触発されて邪気が暴れ出すなどないのだと、誰よりもロキが知っていた。それでもロキは、そこから立ち去る気にはなれなかった。
 たくさんの炎がともってはいたが、地下の部屋にはあたたかさなどなく、冷たい石の壁や床は容赦なくロキの体から体温を奪っていく。
 ロキは紫の炎を視界から締め出す為に目を閉じた。かわりに瞼裏にうつるのは、いつもは明るい笑顔を向けてくれる少女の、血の気のひいた顔だった。白い霧の中、炎の中心で向けられたまゆらの顔だった。
 ……あの子は――驚きはしても、あんな顔はしないと思ってた。あんな、拒絶が混じった色などしないと勝手に決め付けてた。
 ロキは膝に額を押し付け、頬に陰影を落とす炎の残滓からも逃れようとする。そうしても、まゆらの顔は消えないとわかっているのに。
 ――自分勝手な傲慢さに振り回されてひとりで勝手に傷ついている、いつもいつも。


 そう言えば大堂寺まゆらさんの内面につっこんだ書き方を今までしていないなと『破国3』の後半はまゆら嬢に焦点をあててみれば、なぜか探偵の内面につっこむ羽目になりました。
 おっかしーなーモゥ。
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